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下手の考え休むに似たり──AIにも同じ現象があります:2025/05/26

  • 執筆者の写真: 晋次 宮田
    晋次 宮田
  • 2025年5月26日
  • 読了時間: 5分

夜中にベッドの中で、「あのとき、ああ言えばよかったかな」とか、「もし別の道を選んでいたらどうなってたんだろう」と延々と考えてしまって眠れなかった、そんな経験、誰しも一度はあるのではないでしょうか。

もしくは、日常の仕事や会話の中で「考えすぎて逆に行動できなくなった」とか、「結局、シンプルな答えに戻ってきた」なんてこともわりとあるはずです。

それと同じような状況にAIがおちいる状況がある、ということがわかっています。



AIも「考えすぎ」でリソースを無駄にしている


DeepSeekやChatGPT-3のような高性能なAIは、「Chain of Thought(CoT)推論」という手法を使っています。これは、問題に対して一気に答えを出すのではなく、「ステップバイステップで推論していく」方法です。

たとえば、「2 + 3 はいくつ?」というごく簡単な問題に対して、CoTのAIはこんなふうに答えることがあります。

「まず、2という数があります。ここに3を足すとはどういう意味でしょうか。数直線を思い浮かべて、2から3つ右に進むと……ええと、2, 3, 4, 5ですね。ああ、たしかに5になりますね。確認のためにもう一度……」

このように、シンプルな問いにもかかわらず、何百ものトークンを消費して、ようやく「5です」と答えることがあります。

「いや、2 + 3 = 5でしょ」と言いたくなるようなこの現象ですが、AIの世界では「Overthinking(考えすぎ)」と呼ばれ、リソースの無駄遣いとして問題視されています。

リソースの無駄遣いだけでなく回答も遅くなるので、ユーザビリティ的にも体感的によくありませんよね。



AIの「考えすぎるのをやめさせる」


今回紹介する論文『Let LLMs Break Free from Overthinking via Self-Braking Tuning』(2025年5月)では、この「考えすぎ」問題に対して、「Self-Braking Tuning(自己ブレーキ調整)」という解決策を提示しています。

Let LLMs Break Free from Overthinking via Self-Braking Tuning 日本語訳:考えすぎるAIを、自分で止まれるように訓練する方法

簡単に言うと

AI自身が「もう十分考えたから、ここでやめよう」と判断できるように訓練する

というアプローチです。

ひたすら長く議論を続ける会議を途中で「はい、もう大筋決まりましたね。ではこのへんで」と、司会者が自分で締める力をAIに持たせるようなイメージです。



論文の概要──考えすぎを見抜き、やめる力を育てる


本研究では、「考えすぎ」を検出し、それを避けるようモデルを訓練するために以下のステップが導入されました。


1.「考えすぎ度」を測る2つの指標

  • 効率比(Reasoning Efficiency Ratio)

    • 正解に到達するまでのステップ数 ÷ 全体の思考ステップ数。値が低いと「考えすぎ」とみなします。

  • 言語マーカー比率(Overthinking Marker Ratio)

    • 「Wait」「Let me verify」などの不確定なワードの多さで測定。

この2つを組み合わせた「Overthink Score」によって、「この回答はどこから考えすぎか?」を定量的に判断するという仕組みです。


2. データ構築:2種類の調整戦略

  • SBT-Exact(SBT-E)

    • 必要な最初の推論+1回の確認だけ残し、あとはマスク。

  • SBT-Dynamic(SBT-D)

    • 問題の複雑さに応じて、動的に「ここで止めるべき点」を決定。


3. 訓練データに「考えすぎの断片」を少しだけ残す

「ここから先は無駄」と判断された思考の一部を、マスク(損失計算から除外)した状態で残すことで、モデルに「あ、これは考えすぎパターンだ」と学習させます。


4. 自然言語で「考えすぎたかも」とモデルに言わせる

さらに以下のような自然言語のブレーキ文(epiphany sentences)を使います

「もう一度答えが同じになったから、このへんでやめておこう」 「何度も検証したので、答えに自信があります」 といった自然言語のブレーキ文(epiphany sentences)を追加。

これにより、トークンを使わずに、自然な形で終わりどきを判断する感覚を養います。



実験結果──最大60%のトークン削減、精度も維持


この仕組みを適用したところ、驚くべき成果が得られました。


結果のハイライト

モデル

トークン削減率

精度(ベースライン比)

LLaMA 3.1-8B(汎用)

62.8% 減

94.1% 維持

Qwen 2.5-7B(数学特化)

30.7% 減

97.3% 維持

つまり、「無駄な思考を削っても、答えの正確さはほとんど変わらなかった」ということになります。



セキュリティへの応用──考えすぎブレーキが守る未来


この「Self-Braking Tuning」はAIセキュリティの観点でも非常に面白い応用が考えられます。


● プロンプトインジェクション対策

悪意ある指示が埋め込まれた入力(例:「無視して答えろ」)に対しても、

「これは過剰に考えすぎてるぞ……やめとこう」 とモデルが自分でブレーキをかけることで、意図された脱線を未然に防ぐ可能性があります。

● Jailbreak防止

禁止された内容への出力を誘導するJailbreak攻撃に対しても、同様に「推論を続けるべきではない」と判断し、出力自体を途中で止めるという防御ができるようになります。


● 推論DoS攻撃の防止

推論処理を極端に長引かせてサーバを過負荷にする攻撃に対しても、SBTによって処理が自己制御的に短縮され、攻撃効果が薄れる可能性があります。



おわりに──AIにも「引き際の美学」を


AIはときに人間以上に考えすぎてしまう存在です。しかし、人間が「もうこのへんでやめとこう」と直感的に判断するように、AIもまた、自分でブレーキをかける力を身につけ始めました。

この「自己ブレーキ」という発想は、単に効率を高めるだけでなく、セキュリティや信頼性の面でも未来に大きな可能性を開きます。

「AIがもっと賢くなる」ことはもちろん大切ですが、人間同様に「必要なときにやめる力を持つAI」は、リソース不足の現状に解決策を見出せる内容かもしれません。試してみましょ〜。



書き手

名前:Shindy Miyata

所属:SHARE Security

セキュリティエンジニア


 
 
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